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アロデスムス全身骨格
珠洲の珪藻土からアロデスムス全身骨格格発見(1200万年前の絶滅鰭脚類)
アロデスムス復元骨格標本
発見から復元へ
平成8年、珠洲市三崎町杉山の珪藻土(けいそうど)採掘坑で、アロデスムスの化石が発見されました。ほとんどの骨が関節でつながった状態で、ほぼ全身にわたる骨片が見つかりました(残存率64%)。左側の肋骨には海綿が付着してあけた穴が多数あり、このアロデスムスの遺骸は、右を下にして泥に埋没したが、上になった左がしばらく海中にさらされていたようです。
ほぼ全身の状態がわかる例は、カリフォルニア州についで2例目となる貴重なものとわかったため、化石を市文化財に指定し、保存処理とFRPで全身の復元骨格標本を製作することになりました。そして平成14年10月26日の珪藻土彫刻大会において、完成した骨格標本の一般公開にこぎつけました。
珪藻土彫刻大会で一般公開
海綿に侵食された肋骨
アロデスムスとは
ギリシャ語で、alloは「異常な」、desmusは「結びつき」を意味します。アロデスムスは、約1600万年前(中新世中期初頭)に北太平洋の東海岸のどこかで進化し、約1400万年前から1200万年前に、西海岸(日本近海)にまで広がった哺乳類で、鰭脚(ひれあし)類の一種です。見かけはアシカやトドなどのアシカ科に似ていますが、実はアザラシ科と共通の祖先から進化した独特の鰭脚類で、デスマトフォカ科に分類されています。巨大な目と単純化した歯が大きな特徴で、前後の指先には長い軟骨がのびて、長大なヒレをもっていました。
アロデスムスは、現生のアシカのように暖かな海域にすみ、セイウチのように前後のヒレを使って広域を遊泳したと考えられています。しかしその大きな目や独特の歯と顎(あご)の構造から、アシカやセイウチと違い、ゾウアザラシのように魚とともにタコやイカなどを狙って深海まで潜水できたと想像されています。オスの成獣は体長3m以上、体重300kgほどに成長し、メスは一回り小さかったようです。当時の海には、まだシャチが出現していなかったので、サメが天敵であったのでしょう。その歯の化石も珪藻土から、よく出土しています。 今回発見された骨格は、鼻先から尻尾まで2.3mとやや小柄で、骨端の癒合(ゆごう)が十分でないことから、若い個体で、陰茎骨と犬歯がないのでメスと見られます。
1200万年前頃から海洋環境が地球規模で寒冷化するとともにアロデスムスは衰えはじめ、約1000万年前に地球から姿を消してしまいました。
アロデスムス想像図(長野県四賀村化石館蔵)
珪藻土
珠洲市には、珪藻土が豊富に埋蔵されており、多孔質のため軽く断熱性にすぐれる性質を生かして七輪やコンロが生産されており、特産品の一つとなっています。珪藻土とは、水中を浮遊する植物プランクトンの珪藻が、遺骸となって積もったもので、この珪藻の種類を見ることで、珪藻土の堆積した年代を知ることができます。それによると、アロデスムスの出土した飯塚珪藻土部層は、1250-1220万年前と推定されています。
1200万年前頃の能登北部は、海底となっており、起伏に富んでいたため海水の上下の循環が制限され、海底は低酸素の状態になっていました。飯塚珪藻土部層は、深海底で比較的速い速度で堆積し、低酸素のために酸化しにくい状態であったため、アロデスムスの骨格が崩壊せずによく保存されたものと思われます。
出土直後のアロデスムス骨格(蛸島町・鍵主直氏より市へ寄贈)